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ジオコラム

地球規模の大変動と”絶滅と繁栄”

P-T境界(岩泉町安家)

P-T境界(岩泉町安家)

三陸地域は地球規模の地殻の大変動の中で形成されてきました。それは、古生代のゴンドワナ大陸にはじまり、日本列島の骨格を形づくる地球の躍動そのものです。
成り立ちの歴史をさかのぼると、約4億5千万年前にマグマが地下深くで冷え固まってできた「氷上花崗岩」と、一緒に取り込まれてマグマの熱で元々の性質が変わった「壷ノ沢変成岩」、さらに当時地殻を構成し現在は早池峰山とその周辺を構成している「早池峰複合岩類」という3つの岩体にいきつきます。
また、約2億5千万年前、地球の歴史上最大といわれる大量絶滅がありました。多くの生物の種が絶滅した大事件の証拠である「P-T境界」が、東北で初めて岩泉町・安家川上流の斜面から見つかるなど、大変動の歴史を物語る重要な地層や岩体も分布しています。

三陸地域の基盤岩

陸前高田市と大船渡市にまたがる氷上山。この山体を主に形つくっているのが氷上花崗岩です。
壷ノ沢変成岩は、氷上花崗岩となったマグマが地下深部から上昇して取り込まれる前は、砂や泥が堆積して固まったもので、5億年前頃にできたと考えられています。
早池峰複合岩類も5億年前頃かそれよりもやや新しい時代に地殻として形成されたものですが、その後の激しい地殻変動によって、地表に現れました。これらの岩体が三陸地域の基盤をつくっています。
そしてこのような古い時代の岩体に続いて、大船渡市日頃市町大森沢の林道や支流では、約4億2千万年前を始まりとして1億数千万年間に繁栄した生き物たちの化石が産出します。

大量絶滅の証拠となる境界

「大量絶滅」とは、多くの種類の生物が短期間に絶滅することです。中生代に繁栄していた恐竜が巨大隕石の衝突によって絶滅したとされるのもそのひとつですし、ほかにも少なくとも5回あったことが確認されています。なかでも史上最大といわれるのが古生代ペルム紀末に起きた大量絶滅で、それが起きたことを証明しているのが「P-T境界」と呼ばれる地層の境界です。v
この境界は約2億5千万年前、古生代ペルム紀(Permian)と中生代三畳紀(Triassicトリアス紀)の間のものであることから、頭文字をとって「P-T境界」と名づけられました。この境界層を境に、産出される生物の化石が大きく異なります。
このときの大量絶滅では海洋生物の9割以上の種が絶滅したといわれ、古生代に繁栄した三葉虫やフズリナなどもこのときに滅びたとされています。原因は明らかにされていませんが、「世界的な規模で海岸線が後退して、生物の生態系のバランスが崩れたため」という説や、「『スーパープルーム』というマントルの上昇流が発生して一般的な火山の噴火とはケタ違いの大規模な火山活動が起こり、大量の生物が巻き込まれた」という説などがあります。

海の酸素が欠乏した状態を示す黒色の層

P-T境界層の周辺には、チャートという岩石の地層が分布しています。これは、放散虫という小さな生物の殻や骨が深い海の底に堆積してできたと考えられているもので、鉄の酸化物が付着して赤色をしているのが一般的です。しかし、ペルム紀末期から三畳紀(トリアス紀)初期にかけての層は、無酸素状態だったため鉄の酸化物が少なく青みがかった色になっています。
またP-T境界層のころになると、海のなかの酸素が欠乏したためチャートの素となる生物がだんだんと少なくなり、炭のような黒色になっています。

生物が繰り返す絶滅・繁栄、そして進化

このような大量絶滅ですが、そんな時代さえも乗り越えて生き延びた生物がいました。アンモナイトや恐竜の祖先の爬虫類の仲間です。それらは、壊滅的な環境変化にも適応して進化をとげ、やがては恐竜が繁栄した中生代へとつながっていきます。岩泉町で化石が見つかったモシリュウも、この時代に生きていました。しかし、そんな時代もやがては終末を迎え、中生代末には恐竜も大量絶滅に見舞われました。その後、生き延びた種は鳥類へと進化し、地上では哺乳類が繁栄します。
このように、地球の生物は絶滅と繁栄という大きな変化と進化を繰り返して今日に至っています。今でもなぞが多いとされる古生代末の地球の大変動を見ていた根拠「P-T境界」は、今はヤマメが泳ぐ清流・安家川のそばで地球の変化を見つめ続けています。