北上山地の準平原地形と特有の地質が生み出す貴重な植物群
北上山地は、隆起準平原という平坦な地形が隆起後に侵食されたもので、比較的なだらかな山地です。
北上山地の最高峰・早池峰山は標高1,917m、日本百名山として知られ、周辺を含む一帯は早池峰国定公園に指定されています。
早池峰山は、かんらん岩や蛇紋岩という特異な地質や岩石に加えて、雪が少ないため、冬には土壌の水分が凍結します。そのため、早池峰山に一般的な植物が生育することを許さないことから、数々の可憐な高山植物が魅力で、ハヤチネウスユキソウやナンブトラノオなどの固有種をとどめ、140種の希少な高山植物が生育しているのです。森林限界地点や独特の植生は、蛇紋岩の地質の特性によって規定されています。
早池峰山の成り立ち
三陸海岸近くの内陸に、南北に広がる北上山地は、早池峰山を境に北部と南部に分かれ、その成り立ちには違いがあります。
北部北上山地は、中生代の深い海に堆積した地層が複雑に重なり合っています。古い火山活動でつくられた「枕状溶岩」、「柱状節理」という特徴的な溶岩、陸~海の堆積物などを間近に見ることができます。
南部北上山地は古生代シルル紀から中生代白亜紀までの浅い海の地層が堆積しています。古生代の層で見つかる化石から、南部北上山地はシルル紀からデボン紀には赤道付近にあったのではないかと考えられています。
早池峰山は、南部北上山地の一部の古い岩体から構成されています。4億年以上も前の古生代オルドビス紀に海のなかで形成され、中生代後期に海から上昇して地表に現れたと考えられています。つまり、4億年以上前の海中の地殻(地球の表面の岩石の層)がもとになっているのです。
蛇紋岩と特有の植物の関係
早池峰山には、かんらん岩や蛇紋岩という特殊な岩石が分布しています。かんらん岩は、海のなかでできた地殻や、それよりも深いところにある上部マントルにみられる岩石です。また、蛇紋岩は、かんらん岩が変質してできた岩石です。蛇紋岩という名は、表面に蛇のような模様があることから付けられました。
かんらん岩や蛇紋岩は、マグネシウムや重金属を多く含んでいます。特に蛇紋岩から溶け出すマグネシウムイオンは植物の根が水を吸い上げるのを妨げる性質を持っています。また、蛇紋岩は風化しても土壌となりにくく、植物の栄養となるリンや窒素も乏しい状態にあります。
このような特異な地質や岩石に加えて、雪の少ない早池峰山では、冬には土壌の水分が凍結してしまいます。この厳しい気候条件などが、早池峰山に一般的な植物が生育することを許さないのです。その結果、厳しい環境下でしか成育できない「氷河期の生き残り」とされるハヤチネウスユキソウやナンブトラノオなどの固有種をとどめ、140種の希少な高山植物が生育しているのです。ハヤチネウスユキソウなどの高山植物は国の天然記念物に指定されています。
早池峰山の森林限界が低い理由
山には、これ以上の標高では高い木が育たないという「森林限界」があります。森林限界は、山の高度が上がるにつれて気温が低くなることや、積雪、風などの気象条件が関係しています。
早池峰山の森林限界は、その緯度や気候の関係から考えると、標高2,000m前後になるはずです。しかし実際は1,300m付近で森林限界が現れ、それより上では高い木は見られません。
この現象も、実は早池峰山の特異な地質と関係があるとされています。蛇紋岩の地層は氷河時代に氷結の力で破砕され、そうしてできた岩の塊で斜面ができています。岩の塊がゴロゴロしている斜面には高い木が生育しにくいので、森林限界が700mも低い標高にあると考えられています。
早池峰山は日本百名山としても知られ、エーデルワイスよりも美しいとされるハヤチネウスユキソウなどの固有種や、豊富な高山植物が登山者を魅了し、シーズン中は多くの登山客が訪れます。この高山植物の風景は、地質を含む、厳しい環境が造っているのです。
三陸沿岸の地質が生み出す貴重な植物群
三陸海岸沿線でも貴重な植物群を見ることができます。北部エリアの北山崎や鵜ノ巣断崖では、珍しい高山植物のシロバナシャクナゲが清楚な白い花を咲かせることで有名です。
また、南部エリアの広田崎には、黒崎仙峡まで向かう沿道に高原植物のニッコウキスゲが咲き誇っています。